パトスとロゴスは恋人同士。ふたりの性質は正反対で相容れることなく、だけどその愛はほんものだった。
「ねえわたしたちが出会って、そしてこうして愛し合っているのは運命的だと思わない?だってこの世界には、すごくたくさんのひとがいるのよ。それなのにわたしは貴方を、貴方はわたしを選んだ。これが奇跡じゃなくてなんだというの。わたしのこの命はきっとあなたに出会うために生まれたのね」
愛らしいパトスの、花開くような笑顔。薔薇色のくちびるは、銀の鈴のように清らかな声で途切れることなく戯言を紡いでいく。その様子にロゴスはしかめっつら、眉間に皺を寄せて。黒曜石のように澄んだ瞳は、知性のきらめきに濡れている。
「困った人、どうして何も言ってくれないの?」
「確信の無いことを口に出すのは厭なんだ」
ロゴスの声は深く甘く、その声を聞いているだけでパトスはしあわせなきもちになった。
「それから、裏づけも何もない空虚な戯言を聞くのも好きじゃないんだよ」
つめたく突き刺さるロゴスのことば。それでもパトスは彼の冷めた甘い声を、冴え冴えと光る瞳を、自分を否定する言葉すらひっくるめて彼のすべてを運命的に愛していた。
二人の愛が破綻したのはいつのことだったろう。それはきっとずっと昔に密かに訪れていて、静かに静かに水面下で崩壊をはじめていたのだ。
「きみと一緒にいるのは苦痛でしかない。僕は限られた人生を苦痛のままに過ごしたくはないんだ。だから別れよう」
ロゴスの言葉をパトスは受け入れなかった。受け入れられるはずがなかった。彼女は彼を運命的に、盲目的に愛していたから。
たとえその愛が錯覚でしかなくても、彼女にとって彼と彼への想いだけが全てだった。
「ねえどうしてそんなことを言うの?だったら何故わたしを愛したの?そんなふうに切り捨てるくらいなら最初から愛さなければよかったのに」
「ひとの感情は移り行くものだろう。それくらい幼子でも知っている」
「嫌よ、嫌、絶対に別れないわ」
「何故わかってくれないんだ?此れが二人にとって最良の道なのに」
「いいえ、貴方がわたしを捨てるなら、わたし死ぬわ。貴方のいない人生なんて考えられないもの」
きらめく刃を白い首筋に突きつけて壮絶に微笑むパトスは美しかった。こんなに彼女を美しいと感じたことがあっただろうか。ロゴスはその光景に瞠目した。性行為のときですらこんなに興奮することはなかった。己のために命全てを捧げる女にロゴスは欲情した。言いようのない衝動にその身を震わせ、欲するがままに彼女の手からナイフを奪い、柔らかなその身に突き立てる。あふれる赤い飛沫は甘く、かぐわしく。
ふたりの最期はカタストロフィー。
「ああロゴス、あなた初めてあたしを受け入れてくれた。ありがとう、愛してるわロゴス」
そしてのちに、カタルシス。
ロゴス=知性、パトス=情動、カタストロフィー=悲劇的結末、カタルシス=浄化