この感情を声に出して告げたところで、体中に巣食う苦しみが消えるわけではない。消えるのは、あいつが自分のものになったときで、それはつまり、僕の苦しみに終わりはないことを意味している。
だから僕は何も言わない。意味がないなら、悪戯に真実を振りかざしても、無駄なだけだ。
感情を誤魔化して、空虚に蓋をして。
いままでも、これからも、それがいちばん、お互いの幸福につながるのだ。
下の道路を行きかう車が、僕たちの立つ歩道橋を揺さぶる。
「何してたんだよ、いままで」
会話をつなぐのはいつも僕の役目だった。
「友達のとこにいた」
朝倉はいつも、答えるだけ。
ごおっと大きな音を立ててトラックが通り過ぎる。伝わる振動に足元がふらついた。
「あの子が、心配してた」
「うん」
「僕も心配した」
「ごめん」
「…謝るなよ。そんな必要ないし。意味もないし」
僕は笑った。
「ごめん」
低い声で、もう一度朝倉は謝った。
謝らなくていい。でも、どこにもいかないでほしい。この柵を飛び越えて、アスファルトに脳漿をぶちまければ、こいつは謝るのをやめて、僕の名前を呼んでくれるだろうか。僕だけを見てくれるだろうか。なんて。バカなこと。
「すきだ」
無意識に呟いた言葉に、びくりと、朝倉が身体を震わせた。
「おまえがすきだ」
泣きそうな顔が、僕をすがるように見る。
だめだ。そんな顔したって、もう、手遅れだ。
「ずっと前から、すきだったんだ」
だって僕の口は、(朝倉にとっては)暴力的な言葉をつむぐことを止められない。
彼を傷つけるだけだと、追い詰めるだけだと、何も言わないほうが僕達は幸福だったと、そんなことはわかっているのに。
「ごめん…」
暖かな手に、ぐい、と頬を撫でられて、僕ははじめて、自分が泣いていることを知った。
そうか。僕は苦しかったんだ。
初めて気付いた。
僕はもう、誤魔化すのも誤魔化されるのも、苦しくてしかたなかったんだ。
「答えられなくて、ごめん。…でも、ありがとう」
それがどんなに苦しげな声でも、やっと僕は救われたような気がしたんだ。