あの子が欲しい。あの子が欲しい。
そうやって馬鹿みたいに繰り返し繰り返し願う僕はそう、まるで独り善がりのはないちもんめ。
あの子と出会ったのは中学のときからつるんでいる友達の家だった。玄関ドアを開けた先、偶然居合わせたその子に友達が声を掛けた。それが始まり。
「陸、先に帰ってたのか」
振り向いたその子は切れ長の瞳を瞬かせ、俺を見た。
「ああ。…ともだち?」
愛想のかけらもないその声は何故か妙に心に残る響きで。ハイオジャマシマス、と言った俺の声は上擦っていたかもしれない。それどころか、部屋に通されて真っ先に、さっきのって誰?て友達に聞いた、そのときの声も上擦っていたかもしれない。(不審がられなくて良かった本当に)
「あいつ?従弟の陸。こっちの高校通うために、今うちに住んでるんだよ。俺らのいっこ下」
陸っていう名前とか、いっこ下ってことは15歳かとか、そんなことをすかさず頭にインプットしてしまった俺はたぶんそのとき既にイカレてた。
そしてそれからの俺はといえば、狂ったとしか言い様がなかった。
あの子が欲しくて欲しくてたまらなくて、毎晩、陸の夢を…まあ白状しますと、ぶっちゃけイヤラシイ夢を見た。夢の中で陸は俺の望むままに乱れて、俺は興奮がとまらなくて。あああ、こんな俺を知ったら、あの子はいったいどんな顔をするだろう。絶対知られてはならないことだけは確かだけれど。
でも欲しいんだ。髪も肌も瞳も唇も腕も脚も胸も腹も、そのすべてが陸のすべてが欲しくて欲しくて、暴走を始めるココロとカラダが止まらない。こんな気持ちじゃあの子に会えない。会えばナニをするかわからない。神様どうしよう。神様どうか俺に味方して。
それなのにああ畜生、神様なんてどこにもいないじゃないか。
否、いるからこそ、こうなったのか。もうわけがわからない。なんだこの偶然は。初めて会ってから二週間後の五月の夜、友達に借りたCDを返すために家を訪ねたら、門の前に立っていたのは、昨夜も夢想の中で散々汚した陸だった。
月明かりに照らされて静かな雰囲気をたたえた陸は、夢の中とは違って汚れても乱れてもいなくて(当たり前だけど)、でも夢以上に俺を興奮させた。心拍数が過去最高値まで跳ね上がりそうになるのを、こぶしを握りしめて堪える。
「…あいつは?」
かろうじて出した声は情けないことに少し掠れていた。
「なんか、ゲームいいところで手が離せないから、代わりに受け取ってきてって」
相変わらず無愛想な声。人懐っこい従兄弟とは大違い。でもそのストイックな、年の割りに大人びた佇まいが、俺はどうしようもなく、どうしようもなく好きで。
「なんだそれ。馬鹿だなあいつ」
馬鹿なのは俺だ。知らず苦い笑みがこぼれてくる。
「うん」
表情を変えずに、でもこくんと幼いしぐさで頷いた陸がいとしくてたまらない。
ああ、欲しいよ。いますぐこの子が欲しい。どれだけ願えば叶うのだろう。独り善がりのはないちもんめ。このまま永遠に続くのだろうか、このくるしくてどうしようもなく惨めな想いは。
「じゃあ、これ」
CDを手渡したときほんのすこし触れた指先、劣情が伝わらないように息を潜める俺はなんて無様なのだろう。
「あいつによろしくな、ゲームばっかしてるとますますモテねぇぞ、てゆっといて」
「わかった」
すこしだけ笑みを浮かべたきみに、これ以上はやめてくれといいたくなり、くちびるをかみしめる。血の味が舌に滲んでなんだかすこし泣きたくなった。
※取り扱った歌について
スガシカオの「はじめての気持ち」。アルバム「SMILE」収録。友達の弟を好きになる男の歌、だと思う。
好きなフレーズを並べてみる。↓
「だけど もしうまくいったとして 日曜日に手をつないだりするのかな…」
「愛のカタチなんてきっと いつの時代も不気味なのに いとおしいと思う気持ちとモラリティのブレーキとどちらが強い?」
「ぼくらいつか抱き合う瞬間 君の体の中に ぼくの体全部 溶かし込んでしまいたい」
「はじめてのこんな気持ちが 踏みにじられませんように」