うたっていよう









埃っぽい地下室は、この家で唯一の僕の居場所。それなのに汚らしいあの男は毎日毎日、彼女を連れて無遠慮に僕の居場所に入ってくる。


彼女はどんなに汚らしいことをされても何も言わない。今日も彼女は何も言わずにあの男を受け入れている。汚らしい男の手が彼女の白いブラウスを脱がし、下着を剥ぎ取り、素肌を這い回る。真っ白だったブラウスは埃っぽい床の上でぐしゃぐしゃになる。男が彼女の身体の中に割り入って揺さぶるそのたびに、ブラウスの皺が増えていく。
汚らしい男は、嫌悪に眉をひそめる僕の顔を見るのが好きみたいで、馬鹿みたいに息を荒くして、僕にもっとよく見ろとか言う。僕の目の前で、馬鹿みたいに興奮をあらわにして、馬鹿みたいに一生懸命彼女を犯し、薄汚れた精液を彼女の肌に撒き散らす。汚らしい男は長く息を吐くと、満足そうに笑い、今度は部屋の隅でうずくまる僕の前に来る。
「顔を上げろ」
僕が拒むと、汚らしい男は僕の髪をつかんで無理矢理上を向かせる。
「しゃぶれ」
さっきまで彼女を犯していたそれをつきつけて、興奮でぎらぎらした目で汚らしい男は言う。噛み切ってやろうかと思うけど、彼女と僕がその後どんな目に遭うかを考えると実行はできない。 僕はおとなしく汚らしい男のそれに舌を這わせる。生臭い精液と、匂いたつ彼女の味。


汚らしい男が去った後、僕は彼女のそばにいって、その肌についた精液とか汗とか、そういうものを綺麗に拭ってやる。下着をつけさせて、汚れたブラウスを着せてやり、最後にぎゅっと抱きしめると、やっと彼女は言葉を発する。
「ねえスパイダー、ピアノを弾いて?」
やさしく甘い声。僕は彼女の声が好きだ。だから汚らしい男には決して声を聞かせない彼女の姿に、すこしだけ嬉しさがこみ上げる。いつも、いつも。


老いぼれたピアノの蓋を開け、鍵盤を覆うカバーを除き、僕はでたらめにピアノを弾く。僕の演奏はいつも即興。それでもうつくしい旋律になるのが不思議だ。僕の唯一の特技といえるかもしれない。
(汚らしい男は僕の唯一の特技をSuckingだと嘲笑うけれど、それは違う。あんなのですぐイっちまうあの男が馬鹿なだけだ)
僕の旋律に合わせて彼女はでたらめに歌を口ずさむ。砂糖菓子のような甘い甘い声に、僕のあたまはくらくらする。
「いつか二人で逃げよう。僕がきみを連れ出してあげるから」
きみの手をとって、この薄暗い地下室を抜け出して、外の世界を走ろう。きっと幾億もの星が降り注いで僕たちを祝福する。
彼女は何も言わず、ちょっと困ったように笑った。
(この気持ちは真剣なんだけど、こんな薄汚い僕じゃ説得力はないかな)
でたらめなピアノの旋律、いまはこれが僕たちの幸福のすべてだから。
(歌っていよう、いまは、このまま)












※取り扱った歌について
スピッツの「スパイダー」。
「可愛いきみが好きなもの ちょっと老いぼれてるピアノ」
「さびしい僕は地下室の すみっこでうずくまるスパイダー」
「洗い立てのブラウスが いま 筋書き通りによごされていく」
「だからもっと遠くまできみを奪って逃げる」


妄想が過ぎてごめんなさい









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