7人は、手をつないだ。
「もうすぐ終わるね」
窓の外には、目を瞠るほどに赤い、赤い、夕焼け。
「すげえ。夕焼けが、ちょーきれい」
7人の顔も赤く照らされていた。
「たぶん歴史上もっともうつくしい夕焼けだよ」
この夕日が沈めば、世界は終わる。
「うちらラッキーだね。こんなの見れて」
じぶんたちの命もそこで終わる。
「地球の裏側のひとは、今頃朝焼け見てるんだもんな」
この夕焼けとともに燃え尽きる。
「世界の終わりが朝焼けかぁ」
それでも、7人は幸せだった。
「それはそれでオツなんじゃね?」
孤独じゃないということは、それだけで、救いだった。
「まあなんにせよ、これで世界ともサヨナラだ」
夕日が、沈む。




世界が終わる日



まぶたを開けたわたしの瞳が映したのは、夜の闇だった。しん、と静まりかえった室内に、さっきまでの夕焼けは欠片もなくて、手に触れた布の感触に自分がベッドの中にいることを思い出した。
夢、ああ、夢だったのか。ここは、ひとりぼっちの、わたしの部屋で。世界はまだ終わっていない。
ふっとため息を零し、闇に慣れてきた目で手のひらを見つめる。まだ、彼らの温度が残っている気がした。ついさっきまでつないでいた手の温度が。


7人は全員、みなしごだった。100年も前に建てられた木造二階建ての孤児院が、7人の家だった。床板に隙間が空いていて、二階で水を零せば下の部屋で雨が降るような、そんな古びた建物だけど、そこが7人の全てだった。
『ニュースをお伝えします。今日、世界が終わることが確定しました』
二階の端っこの教室で、7人は身を寄せ合って座っていた。
おんぼろのテレビから流れるニュースは、さっきからずっと、今日世界が終わります、の繰り返し。
「ずっと同じこと言ってるね」
「だって世界が終わる以上の大きなニュースなんてないもん」
「そうかなぁ。どうせ世界終わっちゃうんだから、犯罪でもなんでもやっちゃえ!みたいな愉快なヤツもいたんじゃねえの」
「だよねぇ、明日なんてないんだから、罪に問われることもないもんね」

腕時計を見ると、ちょうど5時半を指していた。今日の日の入りは5時39分。
『太陽が沈むと同時に世界は終わると予想されています』
繰り返されるその文句を、すっかり覚えてしまった。

「…世界が終わる日くらい平和に過ごしたいと思うのが人情じゃない?」
「それも一理あるよね。こんな日くらい心穏やかに、誰も憎むことなく、だいすきな人といっしょに過ごしたいもの」
秒針は一定のリズムで時を刻んでいる。
この部屋はこんなにも穏やかで、7人のこどもたちは若く楽しげで、このまま永久に何も変わらないような気がするのに、テレビから聞こえる声は、世界に別れを告げるもの。
『世界の終わりまで、あと5分となりました。予想では、太陽が沈むと同時に世界は終わります。親しい人とのお別れは済ませましたか?感謝の言葉は?全てを終わらせて、しあわせな最後を迎えましょう』


わたしはのろのろとベッドを抜け出し、台所に行って水をグラスに一杯、飲んだ。
カーテンのない台所の窓から、外の灯りが漏れている。今日も世界は昨日のままだ。それが確かめられたことに安堵と失望がまじりあい、妙な気分になる。もう一度、水を、今度はグラスの半分まで注ぎ、一気に飲み干すと、足早にベッドへ再びもぐりこんだ。


「わたしたちって、いま、しあわせなのかな」
時計は、残り少ない時間を容赦なく刻んでいく。
「しあわせとかよくわからないけど、まあ、寂しくないってことは確かだ」
親の顔も知らない、兄弟の顔も知らない、自分がどこで生まれたか、どこから来たのかも知らない、こどもたち。
「寂しくないってのは重要だよね」
『世界の終わりまで、あと3分となりました』
「ねえ、手、つながない?」
その提案は7人を笑顔にした。立ち上がり、そっと手をつなぎあう。
『あと2分です。あと2分でこの世界は終わります。太陽が沈むと同時に、世界は終わります』
窓の外は燃えるような赤に染まっていた。


もう眠気は訪れなくて、ベッドの中からずっと闇が薄くなっていくのを見ていた。もうすぐ夜が明けて、外は朝焼けに染まるのだろう。うつくしい夕焼けは、遥か遠く、地球の裏側にいってしまったのだ。
世界の終わりを見つめる7人のこどもたちは、もう、どこにもいない。
つないだ手のあたたかさを思い出しながら、わたしは、ひとりぼっちのベッドの中で身体を丸めて瞼を閉じた。









うつつに醒めた






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