荒海中学校 2年C組 学級日誌

02. 「ナイスに絶好調!」



11月27日(月) 日直:藤田

昨日の放課後、岡嶋さんと久住くんがハデなケンカをしたらしいですね。
わたしも見たかったなぁ。
榛名さんの証言によると、岡嶋さんが久住くんに机を投げつけ、机のしたじきになった久住くんが鼻血を噴き出していたとか。
あー、見たかったなぁ。もう一回やってくんないかなぁ。
人間が鼻血を噴き出してるところなんてそうそう見られないでしょう?いつかマンガに描くときのために、スケッチしておきたかったな。
あーあ、まじ残念。もう一回、鼻血噴かないかな、久住。
先生は見たんですよね?うらやましいなぁ。




「藤田…日誌っていうのは、今日あったことを書くノートだからね?」
ため息を押し殺して僕は言った。
「だから、書き直し」
「えー」
「えーじゃない」
不服そうな藤田に日誌をつきかえす。
「ほら、そこの空き机使って書いてもいいから」
そう言って、ボールペンを差し出すと、しぶしぶながらも受け取り、僕の隣の空き机で書き始めた。


「ふじちゃん、なんか元気ないねぇ」
藤田が日誌に取り掛かり始めてすぐ、別件で職員室に来ていたらしい久住が、のほほんと近寄ってきた。
「あんたがもう一回、鼻血噴いてくれたら元気でるよ」
「藤田」
つめたく言い放つ藤田をたしなめる。
「仮にも久住は怪我をしたんだからな」
「だって…せっかく自分のクラスで事件起きたのに。わたしも目撃者になりたかったよ。先生だけずるい」
なんつう変な拗ね方だ。僕は呆れてしまって、今度は隠すことなくため息を吐いた。


藤田には『漫画家になりたい』という目標がある。そのために、常に自分の周りにアンテナを張り巡らして、『ネタ』を探しているのだそうだ。
「あのね先生、なんでもない日常に、おもしろいことの欠片は転がってるんだよ。わたしはそれを拾い集めて、物語にしたいの」
いつだったか、リスみたいなどんぐり眼をきらきら輝かせて、彼女はそう言った。


「久住、また何かやらかしてよ。もうクリスマスデートあきらめたの?」
藤田の矛先が再び久住に向けられる。
「あきらめてないけど、近寄ろうとしただけで怒鳴られた…」
矛先を向けられた久住は、この少年にしては珍しくしゅんとした。今日の岡嶋は一日中ぴりぴりしていたことは僕も知っている。
昨日の派手な立ち回りは、学校中で噂になっているようだから、岡嶋がそんな態度に出るのもまあ、無理はないだろう。
「まあ当然よねぇ。学校来ただけ偉いよ、ちなみちゃん」
『ちなみちゃん』とは岡嶋のことだ。藤田と岡嶋は1年のときから同じクラスだったので、親しい。
歯に衣着せぬ藤田に、しかも正論を言われ、何も言い返せない久住はますますしゅんとなった。
「さすがに俺も反省してるよ」
藤田はしばらく、そんな久住をしげしげと眺めていた(どうでもいいから日誌を書いてくれ)が、ふと、思いついたように制服の胸ポケットを探り、生徒手帳を取り出した。
「…じゃあ、これあげるよ」
なにかちいさなシールのようなものを手渡され、久住がきょとんとする。
「先生もあげるー。ペン立てに貼って」
「あ、ああ、ありがとう」
手渡されたものを見ると、2枚のプリクラだった。2枚とも、満面の笑みを浮かべた岡嶋と藤田が映っている。ハートでふちどられたほうには『Nice Smile』という飾り文字に『ちなみ』『彩音』とふたりの名前が手書き文字で入っている。もう1枚の、虹色の星で飾られたほうには、『絶好調!!』という手書き文字がばーんと入っていた。
「かわいく撮れてるでしょ?」
僕に向けられた言葉だったけど、すぐさま反応したのは久住だった。
「いい。超いい!岡嶋かわいい!ありがとう、ふじちゃん!ありがとう、ナイスに絶好調!!」


「久住、あんまり興奮したらまた鼻血出るぞ」
プリクラを見つめて、ひゃーっとか、うおーとか奇声をあげている久住に、僕の言葉が届いている様子はない。
「でも、このぶんならまた面白いことやらかしてくれるかもだね」
いたずらっぽく笑う藤田にも、もう何を言っても無駄だろう。




「ところでふじちゃん、これなんて読むの?この、ナイスのとなりの」
「は?スマイルだよ。英語で習ったじゃん」
「そうだっけ」
久住、それは僕が英語教師と知っての狼藉か?









無理矢理つなげた感満載ですんません。




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