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荒海中学校 2年C組 学級日誌

03.「世界平和が目的さ☆」



12月1日(金) 日直:見崎

今日、僕は、クラスでプチアンケートをとりました。
Q.実際のところ、「通称・アル中」ってどうなの?
A.28人:面白いからいい、1人:興味ない、1人:ないと思う
興味ないと答えたのは榛名でした。ないと思ったのは僕だけでした。
つくづく2年C組だと思いました。

おまけ(by藤田)
ちなみに今日は、2年C組イケメン男子ランキングも集計しました。
1位はダントツで見崎でした。
集計は岡嶋さんがしてくれたんですが、例のごとく、久住が岡嶋さんに「俺は?俺は?」と聞いて、「あんたはランク外だから。つーか目障りだから消えて」と言われて、地面にめりこみそうなぐらいへこんでました。
つくづく2年C組だと思いました。




「藤田まで書いたのか…」
そうは言ってみたものの、日直以外の生徒まで書くのは珍しいことではない。案外、この日誌は生徒に人気があるようだ。どうやらこの子達は、担任の僕と、生徒の間の交換日記というふうに受け取っているらしい。
もちろん実際は違うのだが、そのあたりをやかましく言う気はない。こっちが疲れるだけだし。
「しかもこいつ、ひとのシャーペンで書きました」
見崎に指差し告げ口され、藤田がこれみよがしに肩をすくめた。
「おいおい、イケメン1位のくせにケチ臭いったらないねぇ、ふう」
「かんけーねーだろ」
「ところで、藤田は先生になんか用事か?」
用件があるなら聞こうと思い、日誌をとりあえず閉じて、机の上に置くと、藤田は楽しそうに目を輝かせて身を乗り出した。
「そうそう、先生にも結果を教えてあげようと思って」
「結果?」
意味がわからず首を傾げると、藤田がじれったそうに身をよじった。
「イケメンランキングの結果だよー。市原先生ね、2位だったよ、おめでとう!」
「へ?」
思わず間抜けな声が漏れてしまった。
教師になる前はまるでもてた試しがなかった僕が、『先生』になった途端、チョコレートを過去最高の数もらった。
女子生徒たちから用もないのに話しかけられるようになった。
それは僕がまだ若い先生だからなのだろう。
中学校という空間において、20代の教師は、なにかと目立つ存在だ。生徒たちにとっては、親世代でもなく、同世代でもない。自分たちより少しだけ大人で、でもまだ自分たちに近しい存在。
「それだけ言いにきたの。じゃあね、先生ばいばーい」
藤田はにっこり笑うと、ばたばたと元気よく職員室を出て行った。走るな、とかけた僕の声はまるで無視だ。2位なんだからもうちょっと僕を尊重してくれてもいいんじゃないだろうか。


「イケメンランキングか。よくまあ毎日毎日、ネタを作ってくるなぁ、おまえらは」
その場に残ったままの見崎に視線を向けて苦笑すると、彼はすこし不機嫌な表情になった。
眼光が鋭くなったのだ。ぱっと見には気付かないくらい、微かに。
14歳、反抗期なんだよなぁと僕はのんきに思う。大人の嫌な点をすぐに見つけ出してしまう、ささいなことにも過敏になり、許せなくなる年頃。僕にも覚えがある。
「おもしろ半分に日誌書いたらダメですか?」
見崎は発した質問は、僕の予想通りだった。
そんなことないよ、と僕はことさら穏やかな声を出す。
「みんなが書いてくる日誌は先生のたのしみなんだ。先生はどんなにきみたちと関わろうと思っても、やっぱり生徒ではないから、教室で起きてることを共有できない瞬間は多い。だから、それをできるだけたくさん教えてほしいと思うよ。きみたちのことなら何でも知りたいから」
黙ったままじっと僕を見ている見崎と視線を合わせる。
「ま、普段は『もっと真面目に書け』って言ってるけどな。これ内緒だぞ見崎。みんな調子に乗ってますます増長するし。あんまりふざけたことばかり書かれても困る…」
14歳らしからぬ威厳をたたえていた眼光が、ふっと緩んだ。
「…先生、心配しなくても、これ以上悪化することはないって。すでに十分ふざけた日誌だし」
「それもそうだな」
『2年C組イケメンランキング1位』と称えられた端正な顔に、さっきとは違うこどもっぽい表情が浮かぶ。つられるように僕の表情も緩んだ。


「ところで、先生は『アル中』って通称、どう思います?」
「うーん、まあ、みんながいいならいいんじゃないかな」
本当は僕も『面白いからいい』と思ってたけど、反対派の見崎の手前、適当にごまかしてしまう。
「先生のくせに優柔不断ですね」
見崎は手厳しい。
「こういう性格だから」
「もしも大人が先生みたいなのばっかりだったら、なんつーか、世界はもっと平和だろうな」
そう言って、すこしだけ笑うと、見崎はきびすを返して職員室を出ていった。


「世界平和ねぇ」
世界平和が目的さ、てか。
そんなことよりもむしろ、先生はクラスが平和ならそれでいいな。こんなふうに、生徒たちが日誌にくだらないことを書いて、僕はそれを苦笑しながら読む。ああ今日も教室ではくだらない事件が起きてるんだな、て愉快な気分になる。
僕はそういう平和さを望むよ。










教員免許とっとけばよかったかも、て最近ちょっと思います




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